バイオフィルム(Biofilm)


 biofilmは,物質の表面に付着した菌体自身が産生した多糖体を主成分とするglycocalyxに囲まれた種々の細菌の集合体と定義される.1981年Costertonらが物質に付着した菌が通常,培養によって見いだされる細菌との形態学的差異,すなわちbiofilm形成を報告し,生体内組織におけるbiofilm形成については,1984年Millsらが細菌性心内膜炎でVegetationの形成の核は細菌biofilmによると報告した.
 biofilmを形成した細菌はglycocalyxを介して互いに凝集し,1つの独立したcommunityを形成する.biofilm形成の意義は付着の増強と外界刺激からの防御であり,実際biofilmを形成した細菌は,菌単独の状態に比べ生体の各種免疫機構に抵抗性を示し,免疫グロブリンや抗菌剤がbiofilm中へ透過しがたいことが判明しており,自己の生育にとって不利な環境におかれた場合の生命維持機構ともいえる.
 医科領域においてbiofilmを有する代表的な疾患は,緑膿菌による慢性気道感染症,黄色ブドウ球菌による慢性骨髄炎,レンサ球菌による亜急性心内膜炎,カテーテルなど体内留置異物による感染症があげられる.
 歯科領域では通常プラークを指すが,近年biofilmとして理解することが重要となってきた.高齢者はさまざまな全身疾患を有することから生体の防御力が低下し日和見感染を起こしやすい.とくに要介護高齢者は抵抗力の低下に加え自己の口腔清掃能力低下により,日和見菌の蓄積の結果,誤嚥性肺炎などの感染症が起こることが問題となっている.実際,要介護高齢者からはCandida sp.,Pseudomonas aeruginosaなどが高率に検出されており,これらは強固なバイオフィルムを形成するため不顕性誤嚥による感染症のリスクが高くなると考えられる.要約すると,デンタルプラークはこれらの病原性バイオフィルムと正常な細菌叢の歯面のバイオフィルムの総称である.
 また,重度歯周炎や慢性根尖病巣の難治化要因としてもbiofilm形成の関与が報告されつつある.筆者らの研究でもbiofilm形成が薬剤透過性を減少させ薬剤抵抗性を亢進する
ことを報告しており,これらの付着を予防し,効果的に除去する方法を検討することが重要となっている.